溶接について


いま特にやる物が無いので、そこらに転がっていた20x40mm角パイプの端材にバンドソー(輪になったい糸ノコの刃をモーターで回す電動ノコギリ)で切れ込みを入れ、それを溶接してみます。バンドソーの刃は厚さ1mmのはず(記憶曖昧)なので、切れ込みの幅は1mm強あるはずです。
その前に。いわゆる「溶接」は、大きく分けてガス溶接と電気溶接の2種類あります。厳密に言えばもっといろんな種類があるのかもしれませんが、ごくごく一般的な範囲だけを扱います。
ガス溶接というのは、いわゆる「ロウヅケ」というヤツで、ガスの火の熱でロウと呼ばれる金属を溶かし、接合部に流し込む方式です。
電気溶接は、アーク溶接とも言います。電極からアークを飛ばし金属を溶かし接合させる方式です。


ガス溶接(ロウヅケ)を凄く単純化すると、左の図のような感じです。
ロウ棒と母材をガストーチで炙り、切れ込みにロウを流し込みます。母材とロウ棒は材質が異なる(ロウの融点は、母材の融点よりはるかに低い)ので同一化しません。
図左の母材とロウはくっついていますし、図右の母材とロウはくっついていますが、間にロウが入っているので母材同士はくっついてません。
物凄く単純化すると、2枚の紙を両面テープで接着すると、紙と紙がくっついているように見えますが、実は「紙と両面テープと紙」がくっついてるわけで、紙と紙が直接くっついているわけではありません。
ロウヅケもそんな感じ。母材と母材の間に、両面テープの代わりにロウが入っていると考えれば、そう間違いではない(偏見か?)と思う。

電気溶接(ウチにあるのはTIG)は、母材と、母材と同系統(「クロモリ」も「ステンレス」も「SS400」も「鉄」なので同系統。アルミやチタンは「非鉄」金属なので別系統。)の「溶加棒」を、電極から飛ぶアークで溶かし、切れ込み(接合部)に溶加棒を溶かし込み接合します。
母材と溶加棒は同系統の金属なので、溶けて一体化します。紙の例えで言うと、2枚の紙を溶液で溶かし→漉き直して一枚の紙にする(大袈裟か)ぐらいのものです。
左の画で言うと、接合部を示すために点線を書き入れていますが、母材左と母材右は完全にくっついており、溶接に失敗していない限り剥がれることはありません。



↑という説明だけだと、一方的に電気溶接が優れているようですが、さにあらず、電気溶接には「高温(鉄の融点は1,500度ぐらいだっけ?)による母材の歪み/組成変化が起こり易い」というデメリットがあります。電気溶接とロウヅケ、どちらかが一方的に優れているということはなく、用途で使い分けるべきなんでしょう。

これがマイ溶接機。Panasonic製の直流TIG溶接機です。
持ち運び用のポータブル機で、100V電源なので一般家庭のコンセントで使えます(ただし15A必要)。電気関係の法律が変わり、今現在は販売されていないらしい。
当時(15年ぐらい前かな?)で30万円しました。

溶接部をシールドするためにアルゴンガス(このため、「TIG溶接」を「アルゴン溶接」とも言うらしい)を使います。アルゴンガスを吹きつけながら溶接しないと、溶接部が炭化し強度が著しく低下(というか、それ以前に溶接できん)します。
大瓶は使い切ってしまったので、持ち運び用の小瓶を使ってます。大瓶はガス屋さんからの借り物ですが、この小瓶は私の物、いわば「マイボトル」です(?) これ一本にアルゴンガスを充填してもらって6,000円ぐらいでしたかね。大瓶は確か12,000円。
右端にpythonのフロント用治具が写ってます。

トーチの先端からアークが飛び、真っ直ぐな針金みたいな溶加棒を溶かします。アークは電気なので、定盤という鉄製の作業台に溶接機からのびるアースを接続します。しないと、アークが飛ばないか、運が悪ければ感電します。

トーチの先端から飛び出している針みたいなモノは「タングステン棒」といい、その名の通りタングステン製です。この針状に尖った先端からアークが飛びます。タングステン棒は先端を綺麗に尖らせないと(直流:鉄の場合。交流:アルミは違う)アークが綺麗に飛びません。

バイスに固定し、溶接します。

しました。
直視すると紫外線で目が焼けるぐらいなので、作業中の様子は撮影できません。それ以前に、一人でやってますんで、溶接しながらシャッターをきるのは無理。

こんな感じですね。切れ込みの幅(左の画像だと縦方向)は1mm強です。
周囲が熱で変色してますが、溶接部そのものは綺麗なもんです。SUS304の融点は1,400度強なので、接合部にはそれ以上の熱が加わっているはずですが、アルゴンガスでシールドしているのでビート(「ミミス腫れ」みたいな部分)には焼けの変色はありません。

ワイヤーブラシで磨くとこんな感じ。

ついで。
溶接のビート(「ミミズ腫れ」みたいなの)を削りフラットに仕上げてみました。山が完全に削り取られた事が確認しやすいよう、角パイプを傾けて撮影しています。左の切れ込みが無きゃ、どこを溶接したかわからんでしょう?
削り取ると強度が低下するので、それなりに力が加わる部分のビートは絶対に削り取ったりしません。必要強度が低く、意匠的要素を重視する場合(シンクとかね)のみ、こういった仕上げをおこなうらしです。